新卒採用では母集団形成とともに『内定辞退』が人事部を悩ませる大きな問題です。内定辞退を防ぐためにおこなうのが内定者フォローになり、内定者フォローは内定辞退防止や入社後の早期離職を防ぐ手段として必要不可欠です。
しかし、内定者フォローをしているのに辞退数が減らない企業もいます。何が間違っているのか、何に注意すればいいのか、どのように改善すればいいのか。新卒採用に関する最新データやポイントをご紹介しながら、注意点やメリット・デメリットをまとめました。
目次
内定者フォローとは、一言で言うと『内定者への支援』を意味します。入社するまでの期間を企業が支援することで、不安や疑問点を解決し、新入社員としてモチベーション高く入社してもらうのが目的です。正式な内定者となる内定承諾前の場合は、内々定者フォローと呼ばれることもありますが、おこなうフォロー内容に大きな違いはありません。
また内定者フォローの目的は内定辞退を防ぐだけでなく、入社後のミスマッチをなくし、早期離職を防止するのも目的の一つです。大卒の入社3年以内の離職率は約30%を毎年推移しており「3年で3割が辞める」と言われている状況に変化はありません。
退職率が依然として高いままの理由に入社前の理想と現実に大きなミスマッチが起きていることが挙げられています。内定者フォローはこうした問題にも効果があるとされ、新卒の定着率を上げる効果も期待されています。
就職活動を表す漢字は年連続で「楽」が選ばれるほど現在の新卒採用は売り手市場と呼ばれ、企業の採用意欲も高く、採用人数も増えており、優秀な学生には多くの内定が集中します。マイナビ調査では2019年卒の内定辞退率30%以上が全体の約53%と前年より約1%アップする結果になっています。
リクルートキャリアは2019年春に卒業する大学生が就職活動で内定を得た企業数の平均が2.5社だったと発表しており、一人あたりの内定数が増えたことで、内々定通知後に内定辞退をされる可能性も必然と高まっています。せっかく採用コストと時間をかけて自社に合った学生に内定を出しても断られてしまいやすいのが現在の採用戦線です。
内定を承諾してくれたとしても安心せず、入社するまでの期間を継続的にサポートすることが大切です。そのサポートが内定者フォローとなっています。
大手就職サイトが実施したアンケートによると、内定を承諾した後に「本当にこの会社でいいのか」と5割以上の学生が不安になっていると回答しました。俗に言う内定ブルーの状態になり、そのまま何もフォローせずに放置していると内定辞退という結果になります。
優秀な就活生は何社からも内定を獲得することができ選択肢が多いことも内定ブルーに拍車をかけており、早期に内定辞退をすれば秋採用や冬採用で挽回できるチャンスが残されていることも内定辞退を高める外的要因になっています。
約9割の企業が学生となんらかの接触をしており、約8割の学生が1~2カ月に1回以上の企業との面会や研修の実施を望んでいるとされています。実際に企業側も「1ヶ月に1回程度」が最も多く、内容は「内定者座談会」が最も多い傾向にあります。
しかしながら、マイナビの調査結果では学生の希望する内容に対して実際におこなわれた内定者フォロー内容に差があり、先輩社員(OB・OG含む)との懇親会や、勉強会・グループワーク・研修を望む意見が大きい一方で、実際に対応できている企業が少ないというデータになっています。
学生側は「内定者同士の人間関係を深めたい」「職場の雰囲気を知りたい」「入社後の仕事内容について深く知りたい」「先輩社員や人事担当者との人間関係を深めたい」と内定者フォローに期待する声が多いです。
しかし、実際に内定者フォローで不安が解消されたのは約4割に留まっています。このことから企業は内定者フォローの重要性を理解できているものの、学生のニーズを満たしているとは言い難い状況だと言えます。
最大のデメリットは人事部への負担が大きい点です。
現在の採用スケジュールでは大学四年生の秋採用、大学三年生のインターンシップなど一年を通じて休まる時期がありません。そうした業務と並行して内定者フォローしなければいけない企業も多く、採用担当者の仕事現場が一番ブラック化してしまうなど大きな問題となっています。
上述している通り、学生からは定期的・継続的なフォローの要望が高いため、人事担当者は効率的に動かなければいけません。そのために内定者フォローSNSを導入する企業が増えてきています。様々な特徴と機能がありますが、大学生のスマホ事情に合わせて内定者フォローSNSもスマホアプリに対応させたサービスが普及してきています。
内定者フォローは会社規模・業種業態・内定者人数・居住地・属性など様々な要因によってフォローの仕方をアレンジしなければいけません。代表的な8つの方法をまとめました。
もっともポピュラーな内容です。内定式では、内定証明書の授与、代表取締役・人事部長・営業本部長の挨拶、内定者代表の言葉(人数が少ない場合は全員)、入社前研修(入社前インターン)の説明、写真撮影といったプログラムが一般的です。
内定式と並び多いのが懇親会(懇談会)です。内定式とセットで実施する企業が多く、もっともオーソドックスな内定者フォローになります。内定者同士の人間関係をつくるのが目的で、簡単なレクリエーションを取り入れている企業もいます。内定者人数によっては居酒屋、ホテルでの立食形式、社内での軽食オードブルなど開催場所は臨機応変に対応することが望ましいです。
注意点として本部長や役員以上だけが参加すると緊張してしまい質問もできない空気になるなど十分なコミュニケーションがとれないため、年齢の近い若手社員を参加させるなど工夫しましょう。首都圏開催のみなど開催場所に不公平ができないように配慮する必要があります。
会社に集まってのグループワーク研修や自宅でのeラーニング(インターネット学習)をおこないます。eラーニングでは主に社会人マナーやビジネススキルの習得が中心で、外国語、資格取得支援、WordやExcelの基本的な使い方を学びます。入社後の必要度にもよりますが、学生に負担をかけすぎないようにしましょう。
会社でのグループワーク研修ではチームビルディングを目的とした研修、カラダを使ったコミュニケーションゲーム、コンプライアンスや会社の存在意義と社会人として自覚をもてもらう研修が人気です。内定者同士が仲良くなれるため、懇親会と同じような効果も期待できます。
勉強会では自己紹介ムービー作成や、グループ対抗での商品調査・発表大会などがあります。全国に内定者がちらばっている企業は頻繁に懇親会も開催できないため、合宿形式でおこなう企業もいます。
内定者フォローSNSスマホアプリは連絡、イベント管理、スケジュール共有などに活用します。内定者フォローSNSの種類は大きく総合型とコミュニケーション型に分かれます。総合型はビジネスマナー講座や提出物の確認機能など多機能な点が特徴です。コミュニケーション型はフェイスブックやラインのようなタイムライン形式で簡単に投稿ができ、双方向のコミュニケーションに強いのが特徴です。
社内報の代わりや連絡の手段として利用され、内定者に対して事業内容や業務内容の理解促進、入社意欲の向上が主な目的です。アプリ化されているSNSもあるためスマホとの相性が良いのが魅力です。無料で利用できるLINE(ライン)やFacebook(フェイスブック)は内定者の抵抗感が強く情報漏洩の危険性もあるため、万が一の危険性もないクローズドな内定者フォローSNSスマホアプリChaku2NEXTを利用する企業が増えています。
内定者アルバイトまたは内定者インターンシップと呼ばれ、数週間~数ヶ月など卒業までの期間に、内定者のスキルアップと働くイメージをもってもらうために仕事場で働いてもらいます。任せる業務内容は採用する職種によっても違い、営業職ならテレアポ、販売職なら店舗でのアルバイト、または一学年下のインターンシップのサポートなど様々です。
メリットは入社前に社内の雰囲気を理解してもらい、先輩社員とコミュニケーションをとってもらうことで内定辞退の防止に繋がるだけでなく、即戦力化が期待でき、入社後の受け入れもスムーズになります。
一方で、学業との両立が難しいため、学生の単位取得状況に合わせて余裕のあるシフト体制にしたり、任意での参加を促したりすることが必要です。企業側は業務マニュアルや指導体制など受け入れ態勢を整え、放置しないようにしましょう。また企業と内定者で最低賃金や勤務時間など労働条件を確認し、雇用契約書(労働条件通知書)を取り交わしましょう。
社内・職場・工場・店舗などの現場の見学会です。入社予定・配属予定のオフィスや工場を見学してもらうことで、入社後のギャップを軽減し早期の離職を防ぐことできる重要な内定者フォローです。職場見学で入社意欲が高まったという意見も多く、「見せるほどでもない」と思われるような小さなオフィスの場合でも一度は内定者に見せることをおススメします。
事前準備も不要で、時間もかからず簡単におこなえるのがメリットで、内定者懇親会の前に職場見学を実施する企業もいます。人事部の負担を考慮して内定者研修や内定者インターンシップを導入していない企業なら一度は実施しておきたい内定者フォローです。
会社の雰囲気を知るため、忘年会、新年会、運動会、キックオフイベント、ハロウィンパーティー、クリスマスパーティーといった社内行事に内定者を招き、社員と交流してもらいます。入社後にどのようなイベントがどのような雰囲気でおこなっているのかを知ることで入社後の働くイメージを伝えることが出来ます。
社内報や社史を活用して内定者の企業理解に役立てます。特に従業員の顔と名前がある社内報だと便利です。社内報のメリットは顔と名前を覚えることだけでなく、事業の深い部分まで理解させることができます。逆に内定者をまとめた一覧表の資料も従業員の理解を促進させるのに役立てることが出来ます。社内報が無い場合は簡単な定期連絡や近況報告でも問題ありません。
社内報のデメリットは、作成にかなり時間・労力・コストがかかる点です。内定者のためにイチから作成するのは従業員インタビュー・撮影・文章作成・製本と手間のかかる作業です。すでに社内報がある場合でも人数が多いと郵送作業は大変ですし、郵送コストもかかります。近年はペーパーレス化と、低価格の内定者フォローSNSスマホアプリが生まれたこともあり、その役割は社内報から内定者フォローSNSへと移行しています。
内定者座談会とは、内定者同士または内定者と社員で語ってもらう場です。選考途中に学生と社員が話せる場をセッティングする企業も増えてきていますが、内定後の落ち着いたタイミングで改めて自身のやりたいことや選んだ理由を腹に落とし込んでもらうために役立ちます。
特に選考期間や選考過程が短い場合や、選考時期が早い場合は就活生自身が振り返りの機会を設けるのが少ない傾向にあるため、より有意義な施策となっています。ただ話し合いの場を設けるだけでなく、遊びの感覚を取り入れたレクリエーションを取り入れてもいいでしょう。
座談会開催の目的
座談会開催の目的は入社への不安感の払拭や期待感の醸成です。内定者に自身の就活を振り返ってもらい、自分の言葉で企業を選んだ・決めた理由をアウトプットさせることで腹落ちさせ内定者の不安感を払拭させます。
また経営者・採用担当・先輩社員から内定者にフィードバック(評価・課題)を伝えることで内定者に期待感を与え、社会人になることへの心の準備をしてもらいます。
よく聞く不満と解決方法
座談会や内定者懇親会を開催する企業は多いですが、学生側からよく聞かれるのは「先輩社員の話をもっと聞きたかった」「当日に先輩の名前や職種を言われても覚えきれない」「質問してもいいといきなり振られても質問なんて思い浮かばない」といった感想です。
内定者を10人、先輩社員を5人呼んだら、自己紹介だけでかなり時間を使ってしまいますよね。とはいえ自己紹介なしではお互いの理解が進みません。参加メンバー全員分の資料を作るにしても非常に手間のかかる作業です。そうした課題に内定者SNSが活躍してくれます。簡単に機能と使い方をご紹介させていただきます。
座談会の事前準備の流れ
採用担当者は、座談会に出席してくれる若手社員に内定者SNS(Chaku2NEXT)で自己紹介するようにお願いします。若手社員の自己紹介が終わったら、出欠確認機能を伝えながら次に内定者にも自己紹介をお願いします。
あわせて座談会当日に先輩社員に質問したいことがないかアンケート機能を使い事前アンケートを採ります。採用担当者は、内定者からの質問内容を、先輩社員へ個別メッセージで知らせ座談会当日に回答できるようにお願いしておきます。
また採用担当者が、内定者に質問したい内容(就活振り返り・1学年下の学生へのエール)を事前に伝え、内定者からの回答をアンケートで採ります。内定者には座談会当日に深堀するためのものだから回答内容は簡潔にと伝えておきましょう。
座談会当日の流れ
先輩社員は、事前アンケートで内定者から質問のあった内容を回答します。採用担当者は、事前アンケートを元に内定者の回答内容を掘り下げます。
座談会終了後の流れ
採用担当者は、参加した内定者に座談会を振り返る目的で、座談会で語った内容を内定者SNSでコメント記入するようにお願いします。
採用担当者は、内定者全員に内定者SNSで個別メッセージを送りましょう。座談会参加のお礼と、改めてなぜ採用したのかのフィードバック評価、入社後に期待している内容を伝えます。
内定者は自分のスマホからChaku2NEXTアプリを起動すると、「自分と同期がアウトプットした就活振り返り内容」や「採用担当・先輩社員からの評価・応援メッセージ」を目にすることになり、不安解消やモチベーションアップも期待できます。
富山県の機械メーカー不二越の本間博夫会長の発言が話題になりました。この発言は採用にも深く関係してくる内容だけに、ただの不適切発言として片づけてしまっていい内容ではないように思えます。今回の発言の真意を考えながら、採用に置き換えて問題点を考えてみました。
「富山からは採用しない」発言の真意
「富山で生まれて幼稚園、小学校、中学校、高校、不二越。これは駄目です。変わらない。」「富山で生まれて地方の大学へ行った人でも極力採りません。閉鎖された考え方が非常に強いからです」
確かに不適切な発言ですが、なぜこのような発言をするまでになったのでしょうか。富山県民は閉鎖的だと感じる何かがあったのかと気になっていましたが、先日ある記事でこの疑問に関係するエピソードが書かれていました。どうやら不二越が中国市場を開拓するために出向を命じた社員達が、かなり嫌がった人が多かったようです。
会長の立場からすると、海外拠点もある機械メーカーである以上は海外転勤や海外出向の可能性を納得したうえで入社しているだろうと思っているでしょう。それなのに「富山を出たくない」と公然と嫌がる姿勢を出す社員達に閉鎖的だと思ったのかもしれません。
しかし、社員からすると「地元で働きたくて入社したのに、まさか中国に転勤させられるなんて…」「中国に転勤なんて聞いていない!」と思ったのではないでしょうか。富山県の「持ち家率第1位」という県民性も影響している可能性があります。
採用のミスマッチ問題への考察
本当に社員の方々は閉鎖的な考え方なのでしょうか。様々なメディアでは富山県という地域性にスポットが当てられていますが、採用のミスマッチ問題についても考えていきたいと思います。
そもそも今回の発言ですが、本来は人事部や採用担当者に言うべき内容ですよね。「もっとチャレンジ精神旺盛な学生が欲しい」「海外転勤をアピールポイントにしよう!」「5年後を考えて中国語の得意な学生や海外留学経験のある人材を積極的に採用したい」海外転勤があれば、外国語スキルの高い人材や海外志向の強い人材を採用しなければいけません。
想像になってしまいますが、新卒採用の際に海外転勤を示唆していないまま入社しているのであればミスマッチだと言えますし、海外転勤の可能性を知らないまま入社した社員の方々は少し可哀想かなと感じます。
自分が同じ立場になったら拒否するかもしれません(もちろん社員の方も時代の変化や会社の状況に柔軟に合わせなければいけませんが)。
志望理由の背景と内定者フォロー期間の重要性
採用担当者は敏感に志望理由の背景も推測することが大切です。エントリーしてくれた母集団の傾向として「富山県で働きたい」という志望理由は、逆に言うと「富山県以外で働きたくない」と考える事も出来ます。地元愛が強いといえば聞こえはいいですが、閉鎖的な性格でないか見極める必要があります。
あくまで転勤は可能性である以上は不合格にする必要はないと思いますが、入社前(内定者フォロー)の段階で、海外拠点の状況を踏まえて将来的に転勤の可能性があることを説明することが一番理想的ではないでしょうか。入社後に「思っていたのと違った」とならないためにも、内定者フォローの期間にある程度の心構えをさせてあげるのが大切だと思います。
推測ではありますが今回の発言から、様々なタイプの人材を採用する必要性、将来を見据えた採用計画など様々な背景が考えられました。しかし、新卒採用市場では母集団形成が難しい状況ですので、多様化した採用ニーズ・必須能力・求める人物像(人材要件)に応えるのは容易なことではありません。
「採用のミスマッチをなくす」と言うのは簡単ですが、現在の市場環境や不確定要素を考えると実行するのは非常に難しい問題だと言えます。だからこそ準備期間・選考期間・内定者フォロー全てに時間をかけて対応していくことが今の採用担当者に求められている役割ではないでしょうか。